その昔、小田井村(おたいむら)(現在の西区上小田井あたり)に一人の若者が暮らしていました。そして、その若者は田幡村(たばたむら)(現在の北区金城町(きんじょうちょう)あたり)に住む娘と出会い、恋に落ちたのです。
恋に落ちた二人は、その後も逢瀬(おうせ)を重ね、その日も再会を誓い合っていました。
しかし、約束の日、村はまれにみる大雨で、いつもの「稲生(いのう)の渡(わた)し舟」は使えないので泳いで渡るしかありません。しかし、庄内川は今にも堤防(ていぼう)が決壊(けっかい)しそうなほど増水(ぞうすい)していて、とても泳いで渡ることなど出来そうに無い状態(じょうたい)でした。若者はとても悩みました。「娘はきっと自分を待っている。」意(い)を決した若者は、庄内川に飛び込みました。普段(ふだん)は緩やかな流れをたたえる庄内川も、その時ばかりは龍(りゅう)が暴(あば)れるがごとくの激流(げきりゅう)。「自分を待つ娘のところに行きたい。」その一心で、必死(ひっし)に泳いで渡ろうとしたのです。
水の勢いは増すばかり。その流に抗(あらが)い、必死で娘のもとへ向かう若者。しかし、若者は力尽き、ついに濁流(だくりゅう)に飲まれてしまい、娘のもとへたどり着くことは出来ませんでした。
数日後、娘に届いたのは枇杷島(びわじま)(小田井村の下流の村)あたりに若い男の水死体があがったという悲しい知らせでした。
娘は悲しみに暮れました。そして、傷心(しょうしん)のあまり、庄内川に身を投げてしまったのです。
天に上る星となってお互いを見つめ輝きあう二人。村人たちは、牽牛星(けんぎゅうせい)は小田井村(おたいむら)の若者、織女星(しょくじょせい)は田幡村(たばたむら)の娘だと思ったそうです。
庄内川を天の川にみたてたこのような悲しい七夕伝説(たなばたでんせつ)が残っています。